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薬花の道

 黄色い薬花(やっか)が咲き誇る花畑。
「待て〜、ジョセフィーヌ!」
 アナが、飼い猫のジョセフィーヌを追いかける。
「にゃー」
 ジョセフィーヌは、アナの手をすり抜けるようにして、走り回った。ジョセフィーヌの体は、黄色く染まり、薬花の種まみれだった。
「ここで遊んじゃダメって言ってるでしょう!」
 アナの母が、大きな声で、アナを注意した。
 田舎の山奥に、様々な病気を治すことのできる薬花の研究所があった。研究所は、三階建てのグレーの建物で、その脇には、様々な薬花の花畑が、広がっていた。
 研究所には、薬花から薬を作る古代のレシピが現存していた。それを元に、新しい効能のある薬花の研究をしていた。
 アナの母は、この研究所の助手をしていた。

 アナの家には、研究中の薬花が、栽培されていた。良い匂いのする薬花で、繁殖力がとても強くて、装飾用としての利用が、見込まれていた。
「この薬花は、ラベンダーのようなものかしら。知的障害を改善する効能も期待できると言われているの」
 アナの母が、アナに説明していた。
「効き目があると良いなぁ」
 アナが、薬花から作った薬を飲んだ。
 アナの家族は、比較的貧しかったので、治験の意味も込めて、この薬花を家で育てていた。
「障害を治す幻の薬花というのもあるらしいの。それなら、本当に知的障害が治るかも知れないと言われている」
 アナの母が、説明した。

 アナは、町の普通高校の支援学級の二年生だった。クラスメイトと仲良く遊んでいたが、楽しみは、何と言ってもジョセフィーヌと遊ぶことだった。

 アナの母の誕生会。
「はい、お母さん。プレゼント」
 アナが、研究所の花畑の薬花で花飾りを作って、母に被せた。
「アナ! 研究所の花畑から摘んで来たんでしょ!」
「ごめ〜ん」
「でも、嬉しいわ」
「よく似合っているよ。新婚の頃を思い出す」
 アナの父が、上機嫌でビールを飲んだ。アナの父は、外回りの営業の仕事をしていた。
 その時、ジョセフィーヌが、アナの母に飛びかかって、薬花を食べ始めた。
「こら、食べちゃダメ!」
 アナが、ジョセフィーヌを叱った。
「にゃー……」
 数分後、ジョセフィーヌの体調が悪くなった。
「猫のくせに、薬花を食べたりするからよ」
 アナが、ジョセフィーヌの心臓マッサージをした。
「心臓マッサージなんてしなくても大丈夫よ」
 アナの母が、突っ込んだ。
「ハッハハハハ」
 アナの家庭に笑顔が溢れた。
「ほら、お食べ」
 アナが、ジョセフィーヌを看病しながら、誕生会のケーキを与えた。

 三年前、アナは、ジョセフィーヌに出会った。近所の山道の脇で、段ボールに入れられて、震えていた。ジョセフィーヌは、捨て猫だった。
「家族になってあげるね」
 アナが、ジョセフィーヌを優しく抱き上げ、家に連れて来た。

        *

「お母さんとジョセフィーヌ、遅いね」
 アナが、家で、アナの父に心配そうに声をかけた。アナの母が、ジョセフィーヌを連れて、散歩に出かけた後、帰って来なかった。
「そうだな。遅すぎるね。一緒に、探しに行こう」
 アナの父が、アナを連れて、車で、アナの母とジョセフィーヌを探しに行った。
「居ないな……」
 アナが、心配そうに呟いた。
「私が、障害児だから、出て行ってしまったのかしら?」
「そんなことあるものか!」アナの父が、キッパリと答えた。
 それから、山道を走っていると、アナが、
「あれ、ジョセフィーヌじゃない?」
 と、大きな声を上げた。
 ジョセフィーヌが、山道の脇に転がり、瀕死の状態だった。
「車に轢かれたのかな」
 アナの父が、介抱した。
 ジョセフィーヌは、研究所の花畑に入り込んだようで、全身、黄色くなって、薬花の種まみれだった。
 アナの父が、警察に連絡した。
 警察が、付近を捜索して、アナの父に、
「なにぶん、山道で、目撃情報がほとんどなく……研究所の件で、事件に巻き込まれたという可能性もありますね」
 と、報告した。
「弱ったなぁ……」
 アナの父が、困り果ててしまった。
「スマホがありました! 奥様のものですか?」
 警察が、アナの母のスマホを見つけた。
「ええ、妻のものです」
 アナの父が、それを確認した。
「一応、中身を確認させてください」
 警察が、スマホを持って、警察署に向かった。

 翌日の朝、アナの母のスマホが、警察から返却された。
「中身、見て良い?」
 アナが、アナの父に聞いた。
「良いよ」
 アナが、スマホの中身を見た。アナを写した印象的な写真や動画が多く撮影されていた。待ち受け画面は、母の誕生会の写真だった。
「お母さん……」
 アナは、アナの母のスマホの中身を見て、アナの母が、アナのために色々気遣ってくれていたことが分かった。
「お母さん、無事でいて!」
 アナが、天に祈った。
「それじゃ、会社に行ってくるよ」
 アナの父が、アナに声をかけた。
「こんな日に仕事?」
「働かなければ、お母さんも探せない」
「お父さんなんて知らない!」
 アナは、学校を休んで、山道を隈なく探した。
 夕方、アナの父が帰宅して、
「弁当、買って来たよ」
 と、アナと一緒に夕食を食べた。
「ごちそうさま」
 アナが、弁当を半分くらい残して、自室へ行った。
 夜、アナは、アナの父が、トイレで泣いているのを聞いた。
「お父さん……」
 アナが、アナの父の気持ちを慮って、もらい泣きをした。

        *

 土曜日になった。
 アナが、アナの父に、
「お母さんのスマホ、写真と動画を合わせて、三千MBあるわ。これを元に、ウェブサイトを作って、探したいの」
 と、申し出た。
「そうか、居ても立ってもいられないか」
 アナの父が、手伝って、サイトを作った。
「タイトルは、『母をたずねて三千MB』で良いか」
 アナの父が、掲示板を作って、色々な情報提供をしてもらえるようにした。
 アナが、アナの母の写真や動画をアップして、母探しを始めた。

 その時、「プルルル……」と、アナの母の友人Aが、電話をかけて来た。
「うわ、驚いた」
 アナが、アナの母の電話をとった。
「あら、アナちゃん? お母さんいる?」
「それが……」
 アナが、一部始終を友人Aに話した。
「そうだったんだ……無事を祈るわ」
 友人Aが、電話を切った。
 それから、数分後、友人Aから、短い動画が、送られて来た。
「アナちゃん、しっかりね! お母さんは、きっと無事だから。アナちゃんを一番に考えているから。アナちゃんの気持ちは、伝わるはずだから!」
 アナを励ますメッセージ動画だった。
「ありがとう……」
 アナが、動画を見て、涙をこぼした。
 アナが、思い切って、アナの母の友人Bに電話をかけてみた。
「もしもし?」友人Bが、電話に出た。
「あの、お母さんが、行方不明になってしまって、何か情報があったら……」
「もしかして、君、アナちゃん? ダウン症の」
「はい」
「ごめんね、今忙しいから。障害児の相手していられないんだ」
「そうですか……」
 アナが、電話を切って、思わず涙を流してしまった。
 アナの父が、その姿を見て、
「どうしたんだ?」
 と、問うた。
「ちょっと、酷いこと言われちゃった」
「何言われたの?」
「えっと……」アナが、アナの父に、報告した。
「酷いな……友人B、友人B……」
 アナの父が、友人Bに電話をかけて、
「ちょっと、カチンと来ちゃってさ。アナに何言ったの? 母親が行方不明で、不安になっているアナに言う言葉じゃないでしょう!」
 と、キレた。
「お父さん、もう良いよ」アナが、不安そうにアナの父を諌めた。
「良いんだ。こういうことは、しっかりしなくちゃ」
 アナの父が、電話を切った。

 掲示板には、少しずつ、情報が集まり出した。
〈力になりたい〉アナの友達のK君から、アナを励ます投稿があった。K君も、知的障害があって、アナとは、旧知の中だった。

 日曜日には、アナが、アナの母の実家近くの、アナの産まれた病院へ行った。
「助産師さんですか?」
 アナが、思わず、声を上げた。
 当時の助産師が、たまたま病院に来ていた。
「そうよ。アナちゃんの産まれた時を知っている。あのお母さんが、アナちゃんを置いて、いなくなるものですか! しっかりして!」
「はい!」
 アナが、助産師さんと話し込んで、病院を後にした。
 それから、アナの母の実家へ行って、母方の祖父母と会った。
「お父さんは、こんな時でも、仕事に出掛けて……」
 アナが、祖父母に愚痴った。
「仕方ない。働かなくては、生きていけないんだから」
 祖父が、アナを諌めた。
「アナちゃん、今日、助産師さんに会ったでしょう?」
「はい、私を取り上げてくれた」
「その助産師さん、アナちゃんのお父さんが、呼んでくれたのよ」
「え……?」
「他にも、動画が、届くでしょう?」
「あ、うん……」アナの元には、多くの人々から、アナを励ますメッセージ動画が届いていた。
「お父さんが、アナちゃんのために手配してくれているの。お父さんは、ずっとアナちゃんのサポートをしてくれているのよ」
「そうだったんだ……」
 アナが、アナの父に電話をして、
「お父さん、ありがとう」
 と、だけ言って、照れ臭そうに切った。

        *

 翌々週、アナのサイトに、ドライブレコーダーの動画が、投稿された。アナの母とジョセフィーヌが、映っていた。
「交通事故に遭ったんだ!」
 アナが、叫んだ。
 そこには、交通事故の一部始終が、撮影されていた。
 アナの母は、交通事故に遭って、犯人は、アナの母を車に乗せて、逃走していた。しかし、車のナンバープレートまでは、分からなかった。
 アナの父が、アナを連れて、警察署へ行った。
「この近辺の車ではないですね」
 警察が、捜査してくれたが、犯人の特定には至らなかった。

        *

 春、ジョセフィーヌの体が癒えた。
「散歩に行こうか」
 アナが、ジョセフィーヌを連れて、事故現場へ行った。
「ジョセフィーヌの体に、薬花の種が付いていたんだね」
 そこには、黄色い薬花が、咲き誇っていた。
 家に帰って、事故現場の写真を掲示板に載せた。
〈近所にも、薬花が、咲いているところがあるよ〉
 K君から、薬花の目撃情報が寄せられていた。K君は、障害つながりのアナのネット仲間。知的障害があって、言葉を喋るのが苦手なので、筆談をしていた。
「何かの縁かもね」
 アナの父が、アナとジョセフィーヌを連れて、K君の家の近所に向かった。
「本当だ。あんなところに、薬花が咲いているわ」
 アナが、珍しそうに眺めた。
〈僕の家の前の道にも、薬花が咲いているんだよ〉
 K君の投稿は続いた。
「行ってみよう」
 アナの父が、K君の家に向かった。
「ああ、本当だ。等間隔に少しずつ。言わば、薬花の道ね」
 アナが、K君に会って、話をした。
〈うん。小道の入り口から車庫までね。舗装されていないから。多分、車のタイヤに種が付着していて、花が咲いたんだ〉
「車庫か。この車は?」
〈お父さんの車〉
 K君が、答えた。
「アナ、この車……犯人の車と同じだけど……?」
 アナの父が、驚いた。
〈え?〉
「あ、いや……良いんだ……ご家族に会える?」
 アナの父が、K君に聞いた。
〈もちろん!〉
「はじめまして、Kの父です」
 K君の父が、応対してくれた。
〈僕、今度結婚するんだ〉
 K君が、嬉しそうにアナに報告した。
「そうなんだー。良かったじゃん」
〈黄色い薬花、他にも、病院の庭にも、咲いていたよ〉
 K君が、筆談してくれた。
「あら、見てみたいわ」
〈じゃ、僕も、お父さんと一緒に案内するよ〉
 K君が、K君の父と一緒に、アナたちを病院へ連れて行った。
 そこは、地方都市の病院の庭だった。
 薬花の手入れをしている女性がいた。
 アナが、車を降りて、一目散に駆け寄る。
 後ろ姿だが、忘れるはずもない。
 そこに母が――いた。
 母が、薬花を大切に育てていた。
 アナが、アナの母に抱きついたが、アナの母は、反応がほとんどなかった。
「お母さん、私を忘れてしまったの……?」
 アナが、絶望の淵に立たされた。
 アナの母は、ジョセフィーヌの散歩中、交通事故で、記憶喪失になっていた。犯人が、恐れをなして、アナの母を病院に送り届けて失踪。ジョセフィーヌが、アナの母に抱きついていた時に、薬花の種が、服についていた。アナの母は、その種を病院の庭に蒔いて、育てていた。
「これを見て」
 アナが、アナの母のスマホの写真や動画を見せたり、みんなからの励ましの動画を見せたりしたが、思い出せなかった。
「薬花は、薬にすると、知的障害に効くって言われているけど、どうだろう?」
「そうなの……アナちゃんは、知的障害なのね?」
「……はい」アナが、涙を流した。
 それから、しばらくして、アナたちが、帰宅した。
 一方、アナの母は、病室で、薬花をちぎって、食べてみた。

        *

「犯人のものと同じ車を発見したんですが……薬花が、咲いているんです」
 アナの父が、警察に通報した。
 警察が、犯人の車を検証。
 そして、近所の薬花の咲いている場所を掘り起こした。
「この服は……?」
「血痕が、付着していますよ」
 鑑定の結果、服には、ジョセフィーヌの血液が付いていた。
「犯人の服だ」
「じゃ、あの車は……!」

 K君の父が、警察署に連行されて、事情聴取を受けた。
「私が、犯人です」
 K君の父が、あっさりと自白した。K君の父が、アナの母とジョセフィーヌを轢いてしまった。そして、アナの母を車に乗せた時、ジョセフィーヌが、瀕死ながら、K君の父に飛びついていた。K君の父の服にも薬花の種。K君の父は、それを近くに埋めた。そこにも、薬花が咲いた。薬花のDNAも、一致して、逮捕。
「あの日、息子の知的障害を改善するために、私一人で、研究所の見学に行ったんです。その帰りに……息子の結婚式も近く……言い出せなくて……申し訳ございませんでした」
 K君の父が、頭を下げた。
「病院に送り届けてくれてありがとう」
 アナが、優しく答えた。
 アナとアナの父が、自宅で、ウェブサイトで事の顛末を報告した。
「ジョセフィーヌが、犯人を見つけてくれたんだね」
 アナが、ジョセフィーヌをギュッと抱いた。

        *

 アナとアナの父が、ジョセフィーヌを連れて、アナの母のお見舞いへ行った。アナの母が、薬花を食べていた。
〈本当に、なんとお詫びを言ったら良いのか……〉
 K君が、アナの母のお見舞いへ来てくれて、薬花の花飾りを作った。
「あら、奇遇。誕生会の時も、そうしたのよ」
 アナが、感激した。
 その時、ジョセフィーヌが、アナの母に飛びかかって、薬花を食べた。
「こら、食べちゃダメ!」
 アナが、ジョセフィーヌの心臓マッサージをした。
「え、大丈夫なの?」
 K君が、心配した。
「なんてね! ジョセフィーヌは、薬花を食べると具合が悪くなるみたいなの。だから、その前にやってみた」
「なんだ良かった」
「ハッハハハハ」
「……アナ……アナなのね?」
 アナの母が、アナのことを思い出した。
「え……? お母さん、もしかして……」
「K君が、毎日、薬花を届けてくれていたのよ。記憶喪失にも効くかも知れないって」
 アナの母が、告げた。
「そうだったんだ……」
 アナが、K君に感謝した。
 後日、アナの母が、退院して、自宅に戻って来た。

        *

 少し遅れて、K君の結婚式が、執り行われた。
 K君の父も、参列できた。
 アナにビデオ通話が届いた。
「おめでとう、K君!」
 アナが、K君に声をかけた。
「……あ……りが……とう」
「話せるようになったの?」
「薬花を食べ続けていたら、改善したようで……もっとも、知的障害が治ったというより、言語障害が改善されたようで……本当に、その節は……」
 K君の父が、報告してくれた。
「良いんですよ。それより、薬花、効いたんだ!」
「車庫の薬花を栽培しまして」
「そうか、ジョセフィーヌの薬花の種が、K君の言語障害を改善するとは……お母さんも、治ったし、私は、言うことなし! 終わり良ければ、全て良し!」
「あ……りが……とう」

 アナの母の病院通いが、終了して、快気祝いをした。アナの母の知人らが、集まった。
「酷い対応をして済まなかった」
 アナの母の友人Bが、アナに謝った。
「いえいえ、こちらこそ。お忙しいところ済みませんでした」
「本当に良かった……」
 友人Bが、涙を流してくれた。
「アナ、『ドライブレコーダーを探してみたらどうだろうか』って、言い出したのは、実は、友人Bなんだよ。彼は、トライブレコーダーの取り付け会社に勤めているから、お客さんに片っ端から連絡を入れてくれたそうだよ。五百人」
 アナの父が、アナに告げた。
「五百人って……本当なの?」
「本人は、伝えなくて良いって言ったけど、伝えておくよ」
「伝えてくれてありがとう」
 アナが、友人Bの元へ行って、
「ドライブレコーダーありがとうございます」
 と、お礼を言った。
「いや、良いんだ。アナちゃんの気持ちになったら、何かしてあげたくなってね。お客さんにドライブレコーダーの映像を見せてもらって、あのドライブレコーダーの映像が見つかったんだ。許可を取って、アナちゃんのサイトにアップしたという訳」
「ありがとうございます……」
 アナが、涙を流した。
「いや、良いんだ。アナちゃんのためになりたくなってね。お母さん、無事で良かったね」
「ありがとうございます」
 アナが、快気祝いの参加者を前にして、
「皆さん、励ましの動画、ありがとうございます」
 と、改めて、感謝した。
「これ……」
 アナの母の友人が、揃って、スマホの画面をアナに向けた。
〈アナをお願いします〉
 それは、アナの父が、アナの母の全ての知人・友人に送った短いメッセージだった。
「お父さんに感謝しなさい」
 アナの友人が、口を揃えた。
「ありがとう」アナが、照れ臭そうに告げた。
「お母さんにもね」
「はい……ありがとう」
 アナは、こうして、アナの父母が、どんなにアナを愛していたかを知った。

        *

 相変わらず、アナは、ジョセフィーヌと一緒に研究所の花畑で遊んでいた。ジョセフィーヌが、薬花を食べた。
「だ〜から、食べちゃダメだって!」

 しかし、そんなある日、ジョセフィーヌが、突然いなくなってしまった。
「薬花を食べたからじゃ……?」
 アナが、心配した。
「違うよ。猫は、死に目を見せないというから……」
 アナの母が、やんわりと伝えた。

 数週間後、アナとアナの母が、山道を散歩していた。
「あら、ここにも、薬花の道」
 アナが、それを目にした。
 山道の脇にも、薬花の道が続いていた。
「今度は、等間隔というわけでもないわね」
 アナの母が、分析した。
「うん、車じゃないね」
 アナとアナの母が、薬花を辿って、進んだ。
「家族、できていたんだ」
 そこでは、ジョセフィーヌの家族が、暮らしていた。
 ジョゼフィーヌの子猫が、何かを咥えて、アナの元へやって来た。アナが、それを手に取った。不思議なものだった。透明な何かに所々土が付着して、それが、宙に浮いているようだった。
――幻の薬花。

        了

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