ダウン症のポータルサイト
セカンド・ムーン
命がけでこの世界を救いたいーー。
アナが、病床で最期に語った一言だった。
アナの御霊は、アナの父・間六助と母・冴子に託され、宇宙へ旅立った。
アナの遺骨は、今、地球上を周回して、地球を守ってくれている。
アナは、本当にこの世界を救ってくれた。
*
アナは、父・間六助と母・冴子の間に生まれた、待望の子供だった。
冴子が、三十八歳の時のことだった。
間六助と冴子は、アナのことを溺愛した。
三人で、よく隣市の天文台に行くのが、日課だった。間六助は、日本スペースデブリ回収機構と言う宇宙関係の会社に勤めていた。アナは、間六助の宇宙の話を聞くのが、大好きだった。アナは、天文台で、興味深く天体を見つめ、感激していた。
「何が、そんなに楽しいの?」
冴子が、不思議そうに聞いた。冴子は、正直宇宙にそれほど興味がなかった。
「月の形が、見る度に変わるの!」
アナが、嬉しそうに答えた。
アナは、すくすくと成長して、地元の普通小学校の支援学級に所属していた。
アナが、小学校の卒業式に参列した。間六助と冴子が、父兄の席に座っていた。アナの名前が呼ばれて、「はい!」と、元気よく答えて、階段を登り、ステージに向かった。その時、足を踏み外し、コケてしまった。
「ハッハハハハ」
卒業生と在校生が、大きく笑った。
アナは、苦笑いをして、卒業証書を受け取った。
「パチパチパチパチ」
卒業生と在校生の拍手が、鳴り止まなかった。
アナは、苦笑いをしながら、ステージから降りた。
間六助は、感無量で、涙を流した。
アナは、全校生徒に愛されて六年間を過ごした。全ての生徒が、アナの卒業を祝福してくれた。
*
アナは、郊外の支援学校の中等部に進学した。
ある日、アナが、いつものように支援学校の授業を受けていた。その時、アナが、「グググ」と、苦しそうに椅子から転げ落ちた。
「アナ! どうしたの!」
支援学校の先生が、アナを介抱した。
心臓発作だった。
アナが、病院に救急搬送された。アナの父である間六助が、連絡を受けて、病院に駆け付けた。
「アナ、しっかりするんだよ」
間六助が、アナに声をかけたが、アナの意識はなかった。
翌朝、アナの母である冴子が、ようやく病院に到着した。
「こんな時間まで、仕事か?」
間六助が、冴子を咎めた。
「貴方ほど暇じゃないのよ」
その時、アナが、
「ん……病院……?」
と、目を覚ました。
「そうよ、心臓発作で倒れたの」
「しっかりするんだぞ!」
「二人こそ、離婚なんてしてないで、また一緒に暮らせば?」
アナが、にこりと笑った。アナは、こんな時でも、周りに人の為に冗談を言ってくれた。
「それは……」
間六助も冴子も、返す言葉がなかった。二人は、数ヶ月前に離婚して、冴子が、家を出て行った。間六助は、アナと二人暮らしをしていた。冴子は、アナのことが心配だったが、海外赴任などもあって、やむを得なかった。確かに、離婚するほどの状況ではなかったが、冴子は、仕事に生きる覚悟を決めた。
その矢先、アナは、支援学校の教室で心臓発作を起こした。
冴子は、海外赴任を断り、日本に戻って来ていた。だから、到着が遅れたのだ。
*
「アナちゃんは、ダウン症です。心臓病の合併症があって、根治手術ができません」
アナが生まれてすぐに、医師が、間六助と冴子に告知した。
「どうなってしまうんですか?」
冴子が、驚いて聞いた。
「心臓発作を起こしたら、命はないと思ってください」
「そ、そんな……」
間六助と冴子は、愕然としてしまった。
*
その心臓発作が起きたのだ。
間六助も冴子も、心臓病を甘く見ていた。元気に学校に通うアナの姿を見て、すっかり安心仕切っていたのだ。
間六助は、毎日のように夕方、アナのお見舞いに行った。
「お父さんは、仕事、忙しくないの?」
アナが、病床で、不思議そうに聞いた。
「宇宙が相手だからね。長い目で見て、働いているのさ。冴子と違ってね」
冴子は、毎日忙しそうに過ごしていた。
「ふ〜ん。ね、また宇宙の話を聞かせてよ」
「良いよ〜」
間六助が、得意げに語り出した。
スペースデブリ:
今、地球の衛星軌道上には、無数のスペースデブリ(宇宙ゴミ)が、周回している。「スペースデブリ」には、耐用年数を過ぎ機能を停止した(された)、または事故・故障により制御不能となった人工衛星から、衛星などの打上げに使われたロケット本体や、その一部の部品、多段ロケットの切り離しなどによって生じた破片、デブリ同士の衝突で生まれた微細デブリ、更には宇宙飛行士が落とした「手袋・工具・部品」なども含まれる。旧ソ連がスプートニク1号を打ち上げて以来、世界各国で4,000回を超える打ち上げが行われ、その数倍にも及ぶデブリが発生してきた。多くは大気圏へ再突入し燃え尽きたが、現在もなお4,500トンを越えるものが残されている。スペースデブリは、地表から300〜450kmの低軌道では7〜8km/s、36,000kmの静止軌道では3km/sと非常に高速で移動している。さらに軌道傾斜角によっては相対的に10km/s以上で衝突する場合もありえる。運動エネルギーは速度の2乗に比例するため、スペースデブリの破壊力はすさまじく、直径が10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊されてしまう。数cmでも致命的な損傷は免れない。さらに数mmのものであっても場合によっては宇宙船の任務遂行能力を奪う。5〜10mmのデブリと衝突するのは弾丸を撃ち込まれるに等しい。
「流石、お父さん。凄いわ!」
「どうやって、回収しようとしているの?」
「ロボットアームで掴んで集めようと思っている」
「気が遠くなるわ。いっそ、大きな磁石でくっつければ?」
「まさか!」
「ハッハハハハ」
「私、本気よ。命がけでこの世界を救いたい」
アナが、きっぱりと言い切った。そのまま、アナは、眠りに落ちた。
間六助は、アナの寝顔を見て、奮い立った。
次の日、アナは、目を覚まさなかった。
「アナちゃんは、このまま意識が戻らない可能性があります」
医師が、間六助に告げた。
「そうですか……アナの為に、スペースデブリの回収、いや……世界を救おう!」
間六助が、固く心に誓った。
間六助は、冴子に、アナの病状を伝えた。
「そう……分かったわ」
冴子は、電話口で、そう言っただけだった。
翌日の朝、間六助は、三人の部下を前に、
「宇宙開発の危機である! 何としても、スペースデブリの回収を行う!」
と、息巻いた。
それから、小一時間、作戦会議を開いた。
そして、間六助が、主導して、スペースデブリを回収するために、一つの実証実験が行われることになった。
〈磁石の星〉の打ち上げである。
磁石の星とは、強力な磁石の塊を衛星軌道上に打ち上げ、その磁石の力で、スペースデブリを回収するものである。間六助の勤める日本スペースデブリ回収機構が、開発した。
間六助は、開発を急いだ。アナの命は、風前の灯火だった。アナは、あれ以来、目を覚ますことはなかった。
間六助が、記者会見に臨んだ。
「どういうメカニズムなんですか?」
女性リポーターが、質問した。
「磁石の力で、スペースデブリを回収します」
日本スペースデブリ回収機構の責任者の間助六が、自信を持って答えた。
「飛び交っているスペースデブリを、その磁石にくっつけるんですか?」
「その通り」
「ハッハハハハ」
「そんなこと、できる訳ないじゃない」
女性リポーターが、思わずツッコミを入れた。この名物リポーターは、間助六の元妻の冴子だった。元夫婦なので、容赦なくツッコミを入れた。
「ハッハハハハ」
取材に来た記者たちが、全員、間助六のことを笑った。間助六が、悔しがって隣を見ると、同席した回収機構の部下も笑っていた。
「お前が笑うな」
間助六が、その部下の頭を叩いた。間助六にとっては、ほろ苦いマスコミデビューだった。
「全ては、アナの為だ」
間六助は、自信なさそうに、病室のアナの寝顔を見つめていた。
しかし、奇跡は起きた。
「磁石の星が、思いの外、大きくなっているようです」
マスコミが教えてくれた。間助六が、ほくそ笑んだ。多くのスペースデブリが、磁石の星に引き寄せられていた。間助六も、通販で買った望遠鏡で確認しようとしたが、見えなかった。
「いくつくらいのスペースデブリを回収したんだい?」
日本スペースデブリ回収機構の会長が、間助六に尋ねた。回収機構の会長は、冴子の父だった。
「五個」
「そんなに少ないのか?」
「すいません……実は、知りません」
間助六が、申し訳なさそうに言った。
「確かめる方法はないのか?」
「そんな予算、ありませんから」
間助六が、開き直って、きっぱりと答えた。回収機構の会長は、ぐうの音も出なかった。
「調子いいそうね」
冴子が、目ざとく取材に訪れた。
「順調順調」
間助六が、意気揚々と喜んだ。内心は、はらはらしていた。
二人は、アナの病室に行って、アナの寝顔を見ながら、語り合った。
「また一緒に暮らしたいって、よく言ってたな」
間六助が、ポツリと言って、冴子を見た。
「そう……」
冴子は、複雑な表情をしていた。
ある程度、大きくなった磁石の星は、万有引力により、さらにスペースデブリを引き寄せる力が増大した。大きな万有引力も発生したので、磁石に引き寄せられなかったスペースデブリも回収できるようになったのだ。
磁石の星の大きさは、近くに存在するスペースデブリの量に左右される。場合によっては、小惑星などを吸収することもある。
「正直、驚いています」
間助六が、マスコミを前にして、少し慌てた。
「やったわね!」
冴子が、うれしい悲鳴をあげた。実は、冴子も、間六助とアナの為に、宇宙と磁石の星について、猛勉強していたのだ、
そんな中、マスコミをシャットアウトして、日本スペースデブリ回収機構の会議が、開かれた。
「想定外だと?」
回収機構の会長が、間助六に聞いた。
「大いなる誤算です」
間助六が、きっぱりと言った。磁石の星が、こんなに大きくなるとは、思ってもみなかった。
「どうなるんだ、これから?」
回収機構の会長が、間六助に尋ねた。
「知らない」
間六助が、にべもなく答えた。
間六助は、その日も夕方、アナの病室に行って、帰宅した。
「ノートかな?」
間六助が、アナの部屋を片付ける最中、アナのノートを発見した。アナは、間六助と冴子の離婚以降、寂しさを紛らわす為に、このノートを書いていたようだ。十五冊あった。アナは、お世辞にも上手いとは言えない字で、毎日の日記や宇宙のことを書き綴っていた。
万有引力1:
〈2つの物体の間には、物体の質量に比例し、2物体間の距離の2乗に反比例する引力が作用する〉
これは、以前、間六助が、アナに教えた内容だった。その後のページに、アナのコメントが、書かれていた。
物体の質量に比例!
中心の質量が増せば、万有引力も大きくなる。そこに、新たなスペースデブリが、引き寄せられると、さらに、中心の質量が増す。また、スペースデブリが集約することで、距離も縮むため、万有引力は、さらに強くなる。この相乗効果で、中心部への圧力が増し、中心部の高圧を招く。こうして、引き寄せる物質が、近くにあれば、際限なく高質量・高圧力になって行くのだ。それが、ブラックホールだ。
間六助は、言葉を失った。
「確かに、地球を含め星と言うのは、全て、ブラックホールの途上にある。まだまだ近くの物質があれば、引き寄せる余力を持っている」
間助六が、推測した。
記者会見を開いた。
「じゃ、どうして地球はスペースデブリを引き寄せないの?」
冴子が、質問した。
「スペースデブリは、地球の周りを高速で周回しているからだよ」
「ふ〜ん」
「ブラックホールのメカニズムも分かったと見て、間違いありませんか?」
間助六が、冴子を始めとするマスコミ各社の取材を受けた。
「そうだと思います……」
間助六が、自信なさげに答えた。この事実は、世界的に大きな大ニュースになった。間助六は、テレビにネットに引っ張り凧になった。
「よりを戻そうかしら」
冴子が、復縁をほのめかした。
「本当かい?」
間助六が、驚いた。
間六助が、記者会見の後、会長に呼ばれた。
「素晴らしい成果じゃないか」
回収機構の会長が、間助六を褒めた。
「正直、ホントのことなのかどうか……」
「間くん、それは……」
「あらゆるもの全てが、想定外です」
間助六が、正直に答えた。会長が、絶句した。
間六助は、自宅に戻って、アナのノートの続きを熟読した。
万有引力2:
〈今日、質量を有する任意の2物体が引力の相互作用ポテンシャルを伴うことは、疑いのない自然法則として認められているが、その理由や機構についての研究は進んでいないという状況にあると言える〉
確かに、間六助が、アナに教えた内容だった。
引力は陽子と電子!
「2物体間の引力は、ある分子の陽子と別の分子の電子が引きつけ合う結果である。それならば、質量に比例し、距離の二乗に反比例するのも頷ける」
「磁石の星は、大きくなるに従い、万有引力で、より多くのスペースデブリを引き付けるのです!」
間助六が、アナのこの引力について私見を述べた。
これに対して、特に、世間の反応はなかった。
「そんなこと、今までの科学者が気づかないわけないじゃん」
冴子が、テレビのインタビューを受けていた間助六にツッコミを入れた。
「間さんって、馬鹿なの?」
他局の記者が、冴子に聞いた。
「そうなの」
それでも、間六助は、アナのノートを具に見つめた。
地球の核:
〈中心核、コアとも言う。外核と内核に分かれ、液相の外核の半径は3480km、固相の内核の半径は1220kmである。外核は鉄とニッケルが主成分であると推定されているが、水素や炭素などの軽元素を10%以上含んでいるとしなければ、地震波速度と密度の説明ができない。内核は、地球内部の冷却に伴い、外核の鉄とニッケルが析出・沈降してできたとされており、現在でも成長が続いていると考えられている。ただし、内核の環境である320万気圧では金属鉄はその性質上固相を取るためともされる。地球中心部の圧力は約400万気圧、温度は物質組成とエネルギー輸送過程に依存するため正確にはわからないが、約5000K〜8000Kと推定されている〉
核は鉄とニッケル!
鉄とニッケルと言えば、まさに、磁石にくっつく金属の代表格ではないか。スペースデブリもまた、鉄とニッケルを多く含んでいるのだ。
アナの力強い言葉が、ノートに踊っていた。
「こ、こんなことが……」
間六助が、驚きを隠せなかった。
ここへ来て、地球誕生は、磁石が元だったのではないかという議論が、噴出した。
「磁石の星は、地球誕生と同じメカニズムです!」
間助六が、高らかに声明を出した。もうヤケになっていたのだ。
「本当! 地球誕生のメカニズムが分かったの?」
冴子が、叫んだ。
「まあね」
間助六が、得意げに笑った。
「本当かしら……」
冴子は、間助六の性格を知っているだけに、警戒した。
「あの人は、嘘つきなの?」
他局の記者が、冴子に聞いた。
「どうかしら」
ところで、磁石の力と万有引力は、磁石の星の中心部分への引力なので、星は、自然と球状になる。このことからも、星が球体をしている理由が裏付けられた。
磁石の星が、もっともっと大きくなり、第二の月になる可能性が叫ばれた。さらに、軌道によっては、第二の地球になるかも知れない。
「それも、生命の存在する、ね」
間助六が、胸を張って発言した。もうヤケクソだった。二、三のネットニュースの会社の取材を受けた。話が大きくなり過ぎて、世間がついて行けなくなっていたのだ。長い時間も経過した。
「飽きた」
冴子が、ぶっきら棒に言った。
間六助は、まだアナのノートに頼っていた。
地球の形成:
〈地球の形成は、イマヌエル・カント(『天界の一般的自然史と理論』)やピエール=シモン・ラプラス(『宇宙体系解説』)の星雲説を皮切りに太陽系形成説の一環としてさまざまな考えが提示されている。現在最も有力な説は、原始惑星系円盤でガスや宇宙塵が膠着して微惑星が形成され、さらにこれらが衝突を繰り返しながら成長し原始惑星を経て惑星が形成されたというモデルである。誕生直後の地球は衝突エネルギーで暖められ、マグマの海と呼ばれる溶岩が一面に広がる状態、いわゆる「火の玉地球」状態だったと考えられている〉
間六助が、前に話した小話だった。
アナは、それについて、「何を言っている! 地球は、磁石の星によって形成されたのだ!」と、コメントを残していた。
間六助は、三度、取材を受けた。
「地球は、磁石の星によって形成されたのだ。誰かが磁石の星を打ち上げたのか、たまたま自然界で発生したのか、それは分からない。ただ、磁石の星が、地球の起源だということだけは、はっきりしているのだ。多分」
間助六が、熱弁を振るった。
「新たなスクープはないの?」
冴子が、間助六にハッパをかけた。
「……ない」
「何で、そんなに磁石の星にこだわるの?」
冴子が、イラつきながら吐き捨てた。
「男のロマンだ!」
間六助が、席を立って、退席した。
そんな折、磁石の星の巨大化が、問題になった。
「地球に悪影響が起きるのでは?」
冴子が、ズバズバと指摘してきた。
「磁石の星が、地球に危害を及ぼす可能性があるそうですが?」
他局の記者も、質問をぶつけた。
「それは……その……」
間助六が、オロオロしてしまった。
そんな折、大転機が訪れた。
地球に、大きな隕石が、向かって来ていた。地球に衝突すれば、日本が吹き飛ぶくらいの規模だった。
「磁石の星をぶち当てます」
間六助が、自信なさそうに言った。
「そんなことが可能なんですか?」
冴子が、聞いた。
「それしか方法はありません」
そして、その時は、来た。
磁石の星に推進力のあるロケットを何発も打ち込み、所望の方向に誘導した。
そして、追突。
大きな隕石は、粉々に砕けた。
「せ、成功だ……」
全世界が驚いた。中でも、一番驚いたのは、間六助だった。世界の危機を救ったのだ。
「アナ、世界を救ったよ」
間六助が、病床のアナに報告した。
冴子も、アナの病室に行った。
「もう起きてくれないのかしら?」
冴子が、寂しそうに呟いた。
「ああ、もしかしたら、もう意識は戻らないかも知れない」
「どうして、磁石の星なんて思いついたの?」
冴子が、何の気なしに聞いた。
「アナのアイデアなんだ……磁石も、万有引力も、地球の形成も……」
「そうだったんだ……それで、磁石の星にこだわっていたのね」
「アナの夢、叶えてあげたいじゃん!」
「アナの……夢……?」
「アナは、『命がけでこの世界を救いたい』と、言った」
「それでか……」
冴子が、呟いた。
「アナの磁石の星は、確かにこの世界を救ってくれた」
間六助は、アナの為に、全てを投げ打って、この〈磁石の星〉のプロジェクトを敢行しようとしていたのだ。
「それも、もう終わりだ。磁石の星は、この世から消え失せてしまった」
「楽しませてもらったわ」
冴子は、アナの病室から去って行った。
間六助は、アナの寝顔に見入っていた。
しかし、話は、そこで終わらなかった。磁石の星の核が、残っており、新たにできたスペースデブリを吸収し始めていた。
「磁石の星は、死んでいません!」
間六助が、豪語した。
「本当なの?」
冴子が、驚いて聞いた。
「さらに、回収したスペースデブリから、資源を取り出すことに成功しました」
「おおっ」
マスコミが、驚きを隠せなかった。
さらに、スペースデブリを回収する段階で、新発見があった。
「磁石の星に生命が存在していました」
間六助の鼻息が荒い。
「凄いことだわ」
冴子が、食いついた。世界中のマスコミが、日本スペースデブリ回収機構に殺到していた。
スペースデブリが回収され、磁石の星の深部には、放出されない熱が溜まった。熱が溜まると、生命の元が、成長する。そうして、生命の存在する星が、一つ増えた。
「資源を回収しつつ、生命を育んで参ります」
間六助が、丁寧に抱負を述べた。
「間六助、ここにあり、ね」
冴子が、感心した。
間助六が、アナの病室に行って、改めて、
「やっぱり、地球は、磁石が元になっているんだ」
と、アナに感謝した。
「素晴らしいプロジェクトだった」
冴子も、アナに会いに来て、間助六を褒めた。
「これで、アナが、目を覚ましてくれたら……」
その時、「ピーーーー」と、アナの心臓の波が消えた。
「アナ……アナ、しっかりしなさい!」
冴子が、アナの体を揺すった。
「冷静に」
医師が、アナの元に来て、処置をしてくれた。
数時間後、アナは、逝った。
「これ、見るかい?」
間六助が、アナのノートの最後のページを冴子に見せた。
ノート:〈お父さんとお母さんも、磁石みたいにくっつきますように。ま、期待はしていないけど。二人ともS極なのよ。だったら、私が、N極になる。そうすれば、家族三人ずっと一緒だ〉
「アナ!!!」
冴子が、ノートを握り締めて、アナに泣きついた。
「人の気持ちも、磁石みたいなものかも知れない。くっついたり、離れたり……アナは、磁石の星を通して、それを教えてくれたんだ」
「そうね……」
冴子は、しばらくアナに抱きついていた。
「さ、帰る」
「こんな時も、仕事かい?」
「アディオス、アミーゴ」
冴子が、精一杯、吹っ切れた様子で、去って行った。冴子の目には、まだ大粒の涙が、止め処なく流れていた。間助六が、アナを見つめていた。
看護師が、静かな病室に、入って来て、
「冴子さんは、どんなに忙しくても、毎日夜中に、アナちゃんに会いに来ていたんですよ。アナちゃんの生まれた時の話や、六助さんの素晴らしいところや失敗談をいつも話して聞かせていました」
と、間六助に伝えた。
「冴子……」
間六助も、涙が止まらなくなってしまった。
アナは、意識はなくとも、きっと父と母を尊敬して逝っただろう。
結局、磁石の星は、地球の衛星軌道上を周り、多くのスペースデブリの回収を続けた。世界は、またも救われたのだ。磁石の星は、いつしか、〈セカンド・ムーン〉と呼ばれ、重宝され、宇宙旅行の観光名所になった。
間六助は、世界的にも有名になり、みんなの羨望の眼差しを浴び、冴子と再婚した。
間六助と冴子は、セカンド・ムーンへ行って、アナの遺骨と十五冊のノートを収めた。ノートの表紙には、こう記してあった。
ノートの表紙:〈セカンド・ムーン〉
アナには、未来が見えていたのかも知れない。
了
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