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コンフィデンスマンJP ファミリー編
プロローグ
家族を思って心和む人、胸の痛む人、それはちょうど半々だと私は考える。力を得る人、失う人、それも半々だと思う。親孝行、兄弟思いの美談は数限りなくあるが、それと同じ数だけ親殺し、兄弟殺しの話が「聖書」の昔からある。家族と言うものは、いつもこの半々の危うさの上に揺れながら、それも激しく揺れながら立っているものだ。
久世光彦
ファミリーには、「家族」という意味と「一門」という意味がある。
家族には、絆があって、一門には、掟がある。
そして、家族にも、掟があって、一門にも、絆がある。
1
二年前、都内某所。タンバリンが、ダー子の弟子になりたくて、ダー子を尾行していた。そして、都内ホテルのダー子の部屋を突き止めた。
「よし、弟子入りしよう」
タンバリンが、ダー子の部屋に近づくと、一人の女性が、ダー子の部屋の前に立った。
コックリだ。
コックリは、ボナール伯爵夫人の件で、ダー子に相談に来ているところだった。
「あれは……ミシェル・フウ?」タンバリンは、コックリが、ミシェル・フウであることを見抜いた。
コックリは、ダー子との話を終えて、その足で、梅の墓参りへ行った。
「ここのお墓は、ここ数年、毎日、梅の花が手向けられているんです」住職が、コックリに声をかけた。
「一体、誰が……?」コックリが、訝しんだ。
その間、タンバリンが、コックリの後をつけていた。
さらに、トニーも、コックリとタンバリンの様子を見ていた。
*
ダー子のホテルの屋上に、一台の空飛ぶクルマが、着地した。五十嵐が、降りて来た。
屋上に呼び出されていたダー子、リチャード、モナコ、タンバリンが、出迎えた。
「どうしたの、それ?」ダー子が、質問した。
「BTCで儲けて、買ったんだ」
それから、みんなで、空飛ぶクルマに乗って、東京上空を飛んだ。
「五十嵐、最近見かけなかったわね」ダー子が、運転席の五十嵐に声をかけた。
「アメリカのIT企業に潜り込んで、技術を学んだんだ」
「良いクルマね」ダー子が、空飛ぶクルマを褒めた。
「最新の十人乗りだからな。ホテルのレストランでも行こうか?」
「そうね」
五十嵐が、都内のビルの上空を飛んだ。
「ビルの屋上に駐車場があるのね!」ダー子が、色々なビルの屋上を見て、感激した。
「ヘリポートを改造してるところが多いかな」
一行が、都内のレストランで食事をした。
「ああ、そうそう。今度、コックリが、結婚することになったのよ」ダー子が、五十嵐に伝えた。
「本当か! めでたいな」
「招待状が届いてね。五十嵐も参列するでしょ?」
「もちろんさ」
食事を終えて、みんなで、ダー子の部屋へ行った。
タンバリンが、奥の部屋で、夫妻が赤ちゃんを抱いている絵画を見た。
「この絵は、何というタイトルですか?」
「『天使のいる家』っていうの」
「これが、『天使のいる家』ですか」
「安産祈願の絵なんだって」
「へぇ〜、そんなものがあるんですね。この絵を狙っている人物がいるらしいですね」
「そうなの?」
2
後日、一同が、ネットニュースを見ていると、速報が流れた。
飛車野卓造が、何者かに誘拐された。
「黒塗りの車で連れ去られて……」近所の人の目撃情報が、報じられた。
「飛車野卓造って……三代目ツチノコじゃないか!」ボクちゃんが、驚きの声を上げた。
「一体、誰が、誘拐なんて……?」ダー子も、動揺した。
しばらくして、ダー子のスマホが鳴った。
「はい」ダー子が、電話に出た。
「俺だ」
「赤星さん?」
「ニュースは見たか?」
「誘拐の?」
「犯人は、俺だ」
「本当だ」
「三代目の声を聞かせて」
「……ああ、良いだろう」
「……助けてくれ」飛車野が、弱々しい声を出した。
「無事解放して欲しければ、2100万BTCを用意しろ」
「ちょっと……!」
赤星が、一方的に電話を切った。
「赤星さんが、三代目を誘拐したらしい。2100万BTC用意しろって……」ダー子が、伝えた。
「2100万BTCなんて、無理に決まっている。およそ60兆円だぞ」五十嵐が、声を荒げた。
「いや、それより難しい問題がある」リチャードが、冷静に言葉を発した。
「なんだ?」
「世界中で発行されているBTCの総数が、2100万BTCなんだ」
「じゃ、世界中のBTCを集めなくては……」ボクちゃんが、動揺して、ソファーに座り込んだ。
「……まあ、とにかく、三代目を救い出す! 今回のお魚は、三代目を誘拐した赤星さんよ!」ダー子が、気合を入れた。
「どうしよう……」ボクちゃんが、弱々しい声を出した。
「警察に頼るわけには行かないわ」
「我々が、警察になってしまおうか?」リチャードが、提案して、ボクちゃんとタンバリンも、警察役を演じることになった。
「三代目の家族も必要になるな」ボクちゃんが、先を読んだ。
「確か、三代目には、姪っ子がいるわ」ダー子が、答えた。
「探すか?」
「いや、私が、三代目の姪っ子になりすますわ」
「でも、声でバレるぞ」
「ちょうど良い。電話の声を変換するアプリがあるんだ。それを使うと良い」
「ナイス、五十嵐」
五十嵐が、
「これで良し」
と、飛車野の家の電話の留守電の姪っ子の声を音声変換アプリに取り込んだ。
「三代目の身にもしものことがあったら、四代目は、誰になるんでしょうね?」モナコが、気を揉んだ。
「三代目を取り戻すとともに、四代目候補を探して、守らなきゃ。ミッション追加よ!」ダー子が、気合を入れた。
「四代目筆頭は、ダー子だろう」ボクちゃん。
「ボクちゃん、リチャード……コックリってのもありかも」
「モナコってのは、流石にないか」
「信用詐欺師という点では、スターやジェシーの線もありますよ」リチャードが、指摘した。
「偽物だったマルセル真莉邑?」ボクちゃん。
「タンバリンは?」モナコ。
「流石にそれは……」ボクちゃんが、否定した。
「モナコ、一つ頼まれて」ダー子が、モナコを呼んだ。
「なんですか?」
「あのね……」ダー子が、モナコにミッションを与えた。
「行って来まーす!」モナコが、身支度を整えて、ダー子の部屋を出て行った。
「それにしても、赤星さんが、誘拐なんて、どうしても信じられない。何かあるわ」ダー子は、まだ信じられない様子。
「そうか?」ボクちゃんは、すんなり受け入れた。
「BTCを渡しましょう」
「でも、どうやって……?」五十嵐が、不思議がった。
「まあ、見てなって」
3
二年前、マルタで、インターポール特別捜査官のマルセル真莉邑が、ボクちゃんと会話をしていた。
「ダー子の子猫だろう」ボクちゃんが、不用意な発言をした。
この時、マルセル真莉邑は、ダー子、ボクちゃん、リチャードの名前と顔を知らなかった。
「棚ぼただったわ。それから、後を付けていたの。それから、モナコとも接触して、皆さんのことは、大体掴んだわ」マルセル真莉邑が、のちに語った。
実は、マルセル真莉邑の偽物は、仕込みだった。
「泳がせていたの。本当のターゲットは、三代目ツチノコ」マルセル真莉邑が、飄々と語る。そうして、マルセル真莉邑は、マルタで、三代目ツチノコの尻尾を掴んだ。
「今は、三代目ツチノコを探している」マルセル真莉邑が、日本で捜査を開始していた。
ボクちゃんが、マルセル真莉邑の動きを察知して、
「ツチノコを退治しようとしているのか?」
と、憤った。
「三代目と四代目候補を守らなきゃ! 代が途絶えてしまう!」ダー子が、焦燥感を感じた。
「赤星のやつ、四代目ツチノコの座を狙っているんじゃ?」ボクちゃんが、推測した。
「いや……赤星さん、三代目をマルセル真莉邑から守っているんじゃ?」
「まさか」
ここから、ダー子ファミリーと赤星とマルセル真莉邑のコンゲームがスタートした。
4
「コックリに頼ろう」ダー子が、2100万BTCを集めるために、提案した。
それから、みんなで、コックリの元へ行った。
「結婚式の招待状は、届きましたか?」コックリが、みんなを出迎えた。
「うん、おめでとう」ダー子が、コックリに微笑みかけた。
「コックリ、四代目ツチノコじゃないよね?」ボクちゃんが、聞いた。
「なんですか、それ?」
コックリは、世界中の同じ境遇の子を屋敷に招いて、「夢のような四ヶ月」を送る活動をしていた。その子たちは、四ヶ月間で、多くを学び、心を癒し、羽ばたいて行った。コックリは、その仲間のほか、世界中の恵まれない子を支援していた。世界中にその出身者がいて、コックリ・ネットワークを築いていた。
「コックリは、見事、コックリにしかできないことを成し得たようだよ」リチャードが、喜びを隠せなかった。
「今日はどうされました?」コックリが、改めて、問うた。
ダー子が、コックリに事情を話した。
「フウ家だけでは、無理ですが……」コックリも、流石に2100万BTCは、用意できなかった。
「そうよね……」
「ツチノコが手にしたお宝を全て集めれば、あるいは」
「そんなことができるの?」
「心当たりがあるので」コックリが、バチヘビのひ孫のカクトを頼った。
バチヘビとは:
『幻の怪蛇バチヘビ』(まぼろしのかいじゃバチヘビ)は、矢口高雄による日本の漫画作品。矢口高雄と矢口プロ・スタッフが、秋田県南部で「バチヘビ」と呼ばれる未確認生物、幻の怪蛇・ツチノコを探索する物語。本作をきっかけとして日本中で「バチヘビ=ツチノコブーム」が起こり、矢口の人気を押し上げるきっかけとなった。(ウィキペディアより)
バチヘビは、代々、ツチノコの分け与えた美術品を集めるコレクターだった。カクトは、東北の出身で、世界中の貧しい人々からツチノコのお宝を買い取って、障害児者にお金を渡していた。昔から、ツチノコとバチヘビは、対だった。
5
コックリとカクトも、日本のダー子の部屋へ来て、みんなで作戦を立てた。
「素晴らしい絵ですね」カクトが、『天使のいる家』を褒めた。
「実は、初代ツチノコは、私の曽祖母なのよ」ダー子が、答えた。
「そうだったんですか!」
「この絵だけは、譲らずに、子孫のために残しておいたの。初代ツチノコの最初の仕事で得た伝説の絵画よ」
「欲しいなぁ」カクトが、『天使のいる家』を欲した。
「騙しとってみなさい」
「そうします」
「ハッハハハハ」
「それにしても、あなた、どこかで会ったような……?」ダー子が、カクトの顔をまじまじと見た。
カクトは、パーマ頭に、サングラスをかけた、イケメンだった。
「気のせいでしょう」
「見事騙しとれたら、あなたも四代目候補ね」ダー子が、笑みをこぼした。
その時、「ピンポーン」と、ダー子の部屋のドアチャイムが鳴った。
「誰かしら?」ダー子が、ドアを開けた。
ドアの外に立っていたのは、マルセル真莉邑だった。
「コックリという女性をご存知ないですか?」
「コックリ? さあ、何のことやら」ダー子が、冷静に対処した。
「そうですよね。また伺います」マルセル真莉邑が、帰って行った。
「どうやら、マルセル真莉邑は、コックリの存在を知っているようですよ」リチャードが、声を顰めた。
「どうして、コックリのことを……?」ダー子が、少し動揺した。
「まずい展開だな」ボクちゃんが、動揺した。
「とにかく、コックリを守らなきゃ」
コックリも、マルセル真莉邑のターゲットになった。
「ミシェルじゃ目立つから、どっちもどっちだけど、コックリに戻りな」ダー子が、コックリに指示した。
「はい」
「今回は、コックリの母・ダー子として、コックリを守るから」
「それじゃ、三代目の姪っ子は誰が?」ボクちゃんが、不安そうに言った。
「……ボクちゃん、やってよ」
「まさか! モナコで良いじゃないか」
「ダメなの。大事なお使いをしているから。男のボクちゃんの方が、返って、バレないと思うの。音声変換アプリもあることだし」
「断固反対!」
ボクちゃんが、渋々練習をする。
そして、ボクちゃんが、飛車野の姪っ子を演じて、
「伯父さんを返して!」と、赤星に電話をかけた。
「誰だ? オカマか?」赤星に見抜かれた。
「……ダメか」ボクちゃんが、意気消沈。
「コックリ、できる?」ダー子が、コックリに聞いた。
「冒険すぎる!」
「事情はよく分かりませんが、やってみます。恩返しをしたいから」コックリが、飛車野の姪っ子を演じて、電話を代わった。
「身代金は、用意できたか?」
「流石に大金で……」
「早くしろ!」
「はい」
ダー子がコックリの母、ボクちゃんがコックリの父、リチャードがインターポールの特別捜査官、タンバリンが所轄の刑事を演じた。
「三代目を助け出して、四代目候補を探して、コックリを守り切る!」ダー子が、気合を入れた。
ミッションが、この三つになった。
6
ある日、マルセル真莉邑が、本物の飛車野の姪っ子を連れて来た。
「!」ダー子らが、戦慄を覚えた。
本物の飛車野の姪っ子が、赤星の説得を始めた。
しかし、ダー子も、負けじと、コックリに交渉役を任せた。何としても、飛車野をマルセル真莉邑に引き渡してはならない。
「お前、人格が変わるな」赤星が、疑った。
「そ、そんなことありません」コックリが、答えた。
ダー子らが、全力でコックリをサポートした。
本物の姪っ子は、飛車野のことに関して、ほとんど答えられなかった。
「なんとか乗り切ったわね」ダー子が、安堵した。
ダー子らの方が、飛車野のことに詳しかったのだ。
「マルセル真莉邑の動きも、監視しないと」ダー子らが、マルセル真莉邑の動きを追った。
「インターポールをナメない方が良いですよ」リチャードが、釘を刺した。
「あの姪っ子、コックリじゃないかしら?」マルセル真莉邑が、赤星に尋ねた。
「コックリ?」赤星が、キョトンとした。
「飛んで火に入る夏の虫。ミシェル・フウが、コックリだったら、大事件だわ」マルセル真莉邑の捜査が、コックリにも及んだ。
以来、ダー子らとマルセル真莉邑との駆け引きが、激化した。
7
ある日、ダー子らが、車で移動していると、どんどん道を逸れて行った。
「どこへ向かっているんだ?」ボクちゃんが、運転手に聞いた。
「はい、到着〜」運転手が、ダー子らを車に乗せて、警察署に到着した。
「け、警察署!」
インターポールの捜査官が、運転手になりすまして、ダー子らに接触していたのだ。
「逃げろ〜」ダー子らが、逃げた。
警察署員が、ダー子らを追い詰めた。
そこへ、五十嵐が、空飛ぶクルマで、助けに来て、間一髪逃げ切った。
「誰だー、あの運転手を手配したのは!」ダー子が、憤った。
「すまない」リチャードが、謝った。
「インターポール役のリチャードが、インターポールに騙されてどうする!」ボクちゃんが、激昂。
「どうしてだろう?」
そんな折、赤星から連絡が入って、
「桁間違えた。2100BTCだ」
と、告げられた。
「大きく間違えたわね」ダー子が、少し呆れた。
「ところで、小耳に挟んだんだが、コックリってなんだ?」
「……占いみたいなものよ。子供の頃、流行ったでしょ?」
「ああ、あれか……」
ダー子が、電話を切って、みんなに、
「身代金、およそ60億円になったわ」
と、伝えた。
「なんとかなるかも知れません」コックリが、喜んだ。
「いや、待って。私に考えが……」リチャードが、何かを閃いた。
それから、五十嵐が、ダー子のホテルの屋上に着地しようとしたが、リチャードが、「何かがおかしい」と、気がついた。
ダー子の部屋のあるホテルの従業員が、全員インターポールの捜査官だったのだ。
「逃げるぞー!」五十嵐が、空飛ぶクルマを旋回させた。
インターポールのマルセル真莉邑も、空飛ぶクルマで追いかけて来て、空中で、カーチェイスをした。
ダー子らが、危機一髪のところで、マルセル真莉邑から逃れた。
「どうして、分かったの?」ダー子が、リチャードに尋ねた。
「彼女の情報は、ある程度掴んでいるから」リチャードは、マルセル真莉邑に詳しかった。
「その情報はどこから?」ボクちゃんが、聞いた。
「インターポールの幹部と知り合いでね」
「こちらの情報も筒抜けだけどね」ダー子が、突っ込んだ。
「まだ、BTCは、用意できないのか?」赤星からの催促の電話が来た。
「なんとかするから、伯父さんに危害を加えないで!」コックリが、飛車野の姪っ子を熱演した。
「飛車野さんが、三代目ツチノコなんです」リチャードが、インターポールの幹部に伝えた。
「そうなのかい? じゃ……」
インターポールが、2100BTCを用意してくれた。
リチャードが、2100BTCを持って戻ると、ボクちゃんが、
「流石、リチャード」と、リチャードを労った。
「『飛車野さんの命が保証されるなら』と言ってくれました」
8
「明日、駅前のインターネットカフェに姪を一人で来させろ」赤星から、連絡が入った。
翌日、ダー子が、
「コックリ、落ち着いてね」
と、声をかけた。
「はい」コックリは、緊張気味。
赤星が、飛車野の姪っ子役のコックリをインターネットカフェに呼び出して、手続きさせた。
コックリが、2100BTCを送金した。
「時間を稼いでくれ」五十嵐の声が、コックリの受信機に届いた。
「どうだい、金をむしり取られる気分は? 俺は、その屈辱をずっと味わって来たんだ。約束通り、飛車野を引き渡そう」
インターネットカフェに、赤星と飛車野が、現れた。
「伯父さん!」コックリが、駆け寄った。そして、赤星に抱きついた。
「?」一同、唖然とした。
「……そっちは、犯人!」ダー子が、コックリの受信機に叫んだ。
「え……」
「……お前、姪っ子じゃないな?」赤星が、コックリを突き放した。
その時、最悪のタイミングで、マルセル真莉邑が、コックリの捜査に来た。
「コックリ、逃げて!」ダー子が、コックリの元へ駆け寄って、一緒に逃げた。
五十嵐が、再び、空飛ぶクルマで、みんなを助け出した。
「待ちなさい!」マルセル真莉邑が、両陣営を追った。
「逃げるぞ!」赤星も、飛車野を連れて、逃げ切った。
空飛ぶクルマの車内で、ダー子が、
「コックリ、なんでまた、赤星に抱きついちゃったの?」
と、聞いた。
「ごめんなさい。三代目ツチノコは、細身の長身と聞いていたので」
「どこ情報よ、それ?」
「分かりません」
「ちょっと待ってよ……」ボクちゃんが、考え事をしながら、言った。
「なんだ?」五十嵐が、運転をしながら、聞いた。
「タンバリンじゃないよね?」
「……違いますよ〜」タンバリンが、笑いながら否定した。
「まさかね」
「ハッハハハハ」車内に笑いが起きた。
一行が、ダー子の部屋へ戻った。五十嵐が、ネットで、
「BTCの使用履歴を調べれば、赤星の居場所が、手にとるように分かるはずだ」
と、作業を始めた。
「ダー子さんの自信は、ここから来ていたんですね」タンバリンが、納得の様子。
「でも、世界中で、使われているよ」五十嵐が、途方に暮れた。
「世界中に共犯者がいるのかしら?」ダー子が、推測した。
「くそっ!」
結局、赤星を捕まえられなかった。
みんなで、作戦を立て直した。
「それにしても、三代目、元気そうだったな」ボクちゃんが、ほっとした。
「大丈夫でしょう。誘拐犯が、赤星さんなら。それはそうと、四代目は、誰だー?」ダー子が、伸びをした。
その時、赤星から、電話が来た。
「あれは、どういうことだ? 飛車野の命はないぞ」
「ごめん、今それどころじゃないのよ」ダー子が、答えた。
「俺の誘拐をないがしろにしてないか?」
「そうかも」
「身代金も受け取ったし、飛車野を返したいんだが」
「じゃ、返して」
「良いだろう。実は、今度、ミシェル・フウの結婚式があるんだ。そこで、引き渡す」
「け、結婚式会場で……?」
「そうだ」
結婚式会場が、身柄引き渡し会場に指定された。
9
結婚式の当日になった。
「コックリは狙われている。結婚式はやめよう。危険すぎる」ボクちゃんが、弱気になった。
「絶対やります!」コックリは、強気。
「やろうよ。三代目も、コックリのファミリーも、来るわけだし」ダー子が、鶴の一声。
「はい」
「ここからは、ミシェルになるのよ」ダー子が、コックリに微笑みかけた。
「久しぶりにミサコ&ミシェルの母子の役ですね。お母さん」
「しっかりね」
「はい」
コックリが、ミシェルとして、結婚式に臨んだ。
結婚式の参列者は、空飛ぶクルマで、会場のホテルの屋上に到着した。コックリが手配したのだ。
結婚式の責任者は、あのマレーシアのガラパーティーの支配人。
結婚式場の隅には、ラーメンの屋台があって、波子が腕を振るった。
ダー子が、母親代わり。ボクちゃんが、父親代わり。
五十嵐が司会者を務めた。
新郎は、カクトだった。
「新郎かよ!」ダー子が、突っ込みを入れた。
「驚かせようと思って、黙ってました。ごめんなさい」カクトが、ダー子に頭を下げた。
「婿養子なんです。三兄弟が、フウ家を継ぐ気はないからって」コックリが、伝えた。
会場には、コックリ・ネットワークの人々の姿も多くあった。
「コックリ、ファミリーが増えたのね」ダー子が、激励した。
「その関係で、新郎に出会ったんです」コックリが、照れ臭そうに答えた。
「とっておきの絵画を持ってきたの。縁起が良いわよ〜」
結婚式の会場に、ダー子の『天使のいる家』が飾られた。
結婚式が、開演した。
「ミシェル様は、悪の一族と呼ばれたフー家を見事に変えてくれました」主賓が、挨拶をした。
ダー子は、コックリの母親代わりとして、来賓客に挨拶をして回った。
ブリジット、クリストファー、アンドリューの三兄弟は、それぞれ、パートナーを連れて来ていた。
「フウ家は、ミシェルに任せるわ」ブリジットの化粧が濃い。
「この度は、おめでとうございます」ブリジットの彼氏が、ダー子に挨拶した。
「私の絵ばかり描いている」ブリジットが、照れ臭そうに告げた。
「大学の昆虫博士になったんだ」クリストファ―が、満足そう。
「彼氏だよ〜」アンドリューは、相変わらず。
「ミサコ様、ミシェル様は、立派にやってくれていますよ」トニーが、ダー子に微笑む。
本物のラン・リウ(氷姫)も、参列していた。
ダー子が、コックリのところへ行って、お酌をすると、コックリが、
「サプライズがあるんです」
と、微笑んだ。
「何かしら?」
「実は、スターさんとジェシーさんの結婚式も、隣の会場でやっているんです」
「え! 本当なの?」
「驚かすために、皆さんには、招待状を出さなかったんです」
「見に行ってみようかしら」
「一緒に行きましょう」
コックリが、お色直しで、退席した。
コックリ、ダー子、ボクちゃん、リチャードが、お忍びで、スターとジェシーの結婚式に参加した。
「信用詐欺師、大集合みたいな会場だな」ボクちゃんが、感嘆した。
「あなたが、梅の……」スターが、コックリの晴れ姿に目を細めた。
10
コックリが、お色直しをして、コックリの格好をして、入場した。
「コックリだ!」コックリの昔の仲間が、嬉しそうに歓声を上げた。
その時、結婚式会場のドアが開いて、赤星が、飛車野を連れて現れた。
「伯父さん!」コックリが、飛車野に駆け寄る。
「今は、もう良いから!」ダー子が、それを制した。
「三代目ツチノコよ! 確保して!」マルセル真莉邑も、会場に入って来た。
「追えー!」タンバリンが、赤星と飛車野を追った。
「タンバリン?」ボクちゃんが、不思議そうにタンバリンの姿を目で追った。
「また、問題発生!」支配人が、慌てた。
「ミシェル・フウ様。任意同行をお願いします」マルセル真莉邑が、コックリの手を掴んだ。
「どうして?」ダー子が、その手を掴んだ。
「コックリさん……なんでしょう?」
「!」
「丹波は、インターポールの捜査官なの。優秀なね」マルセル真莉邑に、コックリの素性が、バレていた。タンバリンは、本当に、インターポールの捜査官で、ダー子らの内偵をしていて、コックリが、ミシェル・フウだと断定していた。
コックリの危機。
「コックリは、私が守る! 逃げなさい!」ダー子が、マルセル真莉邑の手を振り解いた。
コックリが逃げた。
マルセル真莉邑らが、追いかけた。
そこへ、出所した山姥さんが現れて、コックリの手を引いて、逃げた。
「山姥さん! 出所できたんですね?」コックリが、喜んだ。
「トニーって外人が、手配してくれたんだって。なんでも、ミシェルを育ててくれたお礼にって……トニーにお礼を言うのね」
「さ、こっちだよ」結婚式会場のウエイターが、コックリを裏導線に誘導した。
「あ、あなたは……?」コックリが、ウエイターに驚いた。
「みんな、山姥さんに育てられた」ウエイターが、優しく微笑む。
他にも、コックリの仲間が、協力して、コックリを救った。コックリの仲間が、従業員に扮して、守っていたのだ。
「はい、そこまで」
でも、インターポールのマルセル真莉邑が、一枚上手で、コックリは連れて行かれた。
「コックリ! どんな状況になっても、あなたは、私の本当の娘なんだから!」ダー子が、叫んだ。
「……」トニーは、静観していた。
「コックリ……それにしても、どうして、今まで、コックリは捕まらなかったんだろう?」ボクちゃんが、不思議そうにつぶやいた。
「私たちや三代目ツチノコを捕まえるために、泳がされていたんでしょう」ダー子が、推測した。
「おかげで、大捕物になりそうですよ」リチャードが、隣の会場を気にした。
隣の会場では、スターとジェシーが、インターポールの捜査官に捕まりそうになっていた。
その時、赤星が、
「俺が、日本のゴッドファーザー、赤星栄介だ。捕まえるなら、俺を捕まえろ」
と、一芝居打って、
「幸せになれよ!」
と、スターとジェシーを逃した。
スターとジェシーは、会場の屋上の空飛ぶクルマで高飛びした。他の信用詐欺師も、空飛ぶクルマで、逃げた。
「コックリ、このために空飛ぶクルマを?」ボクちゃんが、驚いた。
「はい、一応」
「コックリって、なんだ?」赤星が、聞いた。
タンバリンが、どさくさに紛れて、『天使のいる家』を奪おうとした。
「なんだ、お前。捜査官じゃないのか!」コックリ・ネットワ―クの人々が、絵を守ろうとした。
「無茶しないで!」ダー子が、コックリ・ネットワークの人々を制した。
その時、タンバリンが、
「邪魔をするな!」
と、コックリの仲間に向かって発砲。
「危ない!」リチャードが、コックリの仲間の前に立ちはだかって、かばった。
銃弾が、リチャードに向かった。
「カーン」と、金属音がした。
そして、リチャードは無傷だった。
近くには、銃弾のめり込んだ包丁が落ちていた。
波子が、銃弾に向けて放った包丁だった。
「ナイフ使いの練習が役に立ったわ」波子が、ほっと胸を撫で下ろした。
「波子さん……」リチャードが、デレデレした。
しかし、タンバリンが、『天使のいる家』を奪って、空飛ぶクルマで逃走。
「あ!」ダー子が、残念そう。
タンバリンは、最初から、『天使のいる家』を狙って、ダー子に近づいていたのだ。
「三代目は?」ダー子が、飛車野を探した。
飛車野は、いつの間にかいなくなっていた。
「流石、三代目ツチノコ」ボクちゃんが、感心した。
赤星が、確保された。
「ありがとうございます」インターポールの幹部が、赤星にお礼を言った。
「どうして、赤星さんにお礼を?」ダー子が、驚いた。
「本当の目的は、インターポールの窃盗犯をあぶり出すことにあったんです」
「捕まんないの?」
「インターポールの仕事じゃないわ。私も、ツチノコには、恩があるから。2100BTCは、インターポールからのプレゼントということにしておくわ。元々、世界中の人々から、ツチノコの命を守るために提供してもらったお金だし、障害児者のために使ったなら、返金しなくて良いって言ってくれたの」マルセル真莉邑が、余裕の表情。
実は、リチャードとインターポールの幹部は、つながっていて、タンバリンをあぶり出すため、協力していたのだ。
「逃げられてしまいましたが」リチャードが、申し訳なさそうに頭を下げた。
「窃盗犯が、誰か分かっただけでも十分な収穫です」
「ダー子さんたちも、今回は、見逃すわ。ただし、今度会った時は、覚悟してね」マルセル真莉邑が、釘を刺した。
11
大捕物が終わって、インターポールの捜査官が去って行った。
ダー子が、結婚式会場のマイクに向かって、
「結婚式のフィナーレはまだよ〜!」
と、号令をかけた。
参列者が、連絡を受けて、再び集結した。
「それでは、改めまして、新郎新婦のご入場です」五十嵐が、司会をこなした。
「え?」会場が、ざわついた。
ミシェルの姿をしたコックリと、タキシードのカクトが、入場した。
「捕まったのは、モナコさんなんです。危険を冒して、影武者になってくれるって……」コックリが、説明した。
ダー子らの名演技だった。
「トニー、気づきましたか?」ダー子が、尋ねた。
「ええ」トニーは、捕まったのは、ミシェルじゃないと見抜いていた。
そうして、結婚式の続きを行なった。
「俺も良いのか?」赤星も参加。
「もちろんよ!」ダー子が、嬉しそうに答えた。
「ん? あれ、コックリって娘じゃないのか?」
「そうよ、ミシェルは、私たちの子猫だったの」
「本当なのか!」
「口が裂けても言わないで」
「……驚いた」
コックリが、高砂で立ち上がって、
「時間がありません。単刀直入に言って、私は一体、誰の子なんですか?」
と、悲痛な面持ち。
トニーが、立ち上がって、コックリの元へ行って、
「ミシェル様は、間違いなくレイモンド様の娘です。何も恥じることはない」
と、穏やかに微笑んだ。
「それじゃ、私は、素性を隠さないで生きていって良いんですね?」
「堂々と……母親は、梅様。梅様とミシェル様には、フウ家のお城に住んでいただこうと思ったのですが、『フウの名に傷が付くから』と、梅様が、お断りになって……」
それから、トニーが、レイモンドと梅の出会いと馴れ初めの話をした。概ね、ミサコの言っていた通りだった。
「梅様が亡くなって、ミシェル様の行方が、分からなくなっていた。それが、レイモンド様の心残りで……」最後は、トニーが、涙ぐんだ。
梅の墓の住職が、
「梅さんが亡くなった時、ミシェル様は、涙を流さなかった。気丈に、送り出しました。どなたが、梅さんの墓前に梅の花を手向けていたのか分かりませんでしたが、今日、分かりました……ここにいる仲間の皆さんだったのですね。見覚えがあります」
と、スピーチした。
山姥さんが、
「梅は、苦労人でね。詐欺が下手だから、いつも男のためにお金を使っちゃうのよ。そんな中、レイモンド・フウに出会った。やめとけって、言ったんだけど……はじめのうちは、お魚のつもりだったらしいんだけど。今までの中で、一番包容力があるって、喜んでいた。言葉も通じなかったのに……そのうち、本気で惚れて、この人しかいないって……だけど、許される恋じゃなかった……ココロは、素敵な女性になるって……本当にそうなったね」
と、コックリに微笑みかけた。
最後に、コックリが、
「時間がありません。端的に言います。素晴らしいファミリーに巡り会えた。それが、嬉しくて嬉しくて……」
と、涙を流した。
「コックリが作ったファミリーだよ」会場から、拍手喝采。
カクトが、コックリの手を引いて、会場を出た。
「ミシェル様、申し訳ございません」支配人が、頭を下げた。
「いえ、結婚式は、上出来ですよ」コックリが、涙を拭った。
トニーが、「さ、こちらへ」と、コックリとカクトを連れて、去って行った。
ダー子らも、空飛ぶクルマで、会場を後にした。
12
後日、ダー子、ボクちゃん、リチャード、山姥さんが、コックリを連れて、レイモンド・フウの墓地へ行った。
「ようこそ」トニーが、出迎えた。
山姥さんが、コックリに、
「あなたは、正真正銘、レイモンド・フウの子供。母親は、梅。梅は、死ぬ直前まで、レイモンド・フウの娘だってことを黙っていたけど」
と、声をかけた。
「梅さんの一世一代の大仕事ね」ダー子が、微笑んだ。
「梅がね、『全ての不運は引き受けた。あなたは、幸せになれる。絶対に。その幸せを分け与えなさい』って、遺言を遺した。レイモンドからは、『父の愛情を与えられなくてすまない』と、メッセージが届いたのよ。『ココロ』の名付け親は、レイモンド。レイモンドの一番好きな日本語なんだって」
「トニー、いつから知っていたの……?」ダー子が、尋ねた。
「実は、ミシェル様のDNA鑑定をしていた頃、こちらでも独自に調べて、本当にレイモンド様の血を引くことが判りました。でも、実母は、ミサコ様ではなかった。それで、本当のお母様を調べていて、梅様にたどり着きました」
「そう……」
「もっとも、初めて、ミシェル様を拝見した時に、ミサコ様が、『目元や鼻筋が、レイモンド様に似ている』と仰った。実際、私も、レイモンド様の子であると、確信したのです。レイモンド様は、『詐欺師が集まる』という話を聞いて、梅様のお嬢様であるミシェル様が来るかもしれないと思って、あの遺言を残した。レイモンド様が亡くなる前、『ミシェルに会いたい』と仰っていた意味が分かりました」
つまり、トニーは、コックリが、ダー子の子猫だと気付いていた。
「コックリが本物のミシェルかどうかではなく、私たちの行動を見ていたんですね?」
「はい」トニーが、ゆっくりと答えた。
「だから、あえて、コックリのDNA親子鑑定を私にやらせた。確かに、不自然だと思ったんですよ」
「ミサコ様、ボクちゃん、リチャード様の信用詐欺師としての腕前を拝見させていただきたく……試すような真似をして、すみませんでした。ミサコ様」
「ミサコだなんて……ダー子と呼んでください」
「はい……ダー子様のDNAは、寝室の枕に残った毛髪から採取させていただきました」
「それだけ知っていて、よくコックリを当主にしましたね」
「本当にフウ家の当主にふさわしければ、自分のメンツで。しかし、レイモンド様のご遺言とは言え、素性の分からないミシェル様を当主にするのは、抵抗がありました。しかし、あのガラパーティーのハプニングの対応を見て決めました。ミシェル様の潜在能力が優っていたのでしょう」
「そうですね……」
みんなが、ガラパーティーの時のことを思い出した。
「あのガラパーティーでは、多くの詐欺師を集めたくて、招待状を送ったんです。ダー子様の素性を知りたくて」
「そうだったんですか……」ダー子が、少し驚いた。
「そんな折、ミシェル様の実母を名乗る人物と接触して……」
「……」ダー子が絶句した。
「スターと呼ばれる……筆跡が、レイモンド様のものとは、違っていましたので」トニーは、見破っていた。
「ああ……」
「しかし、その内容は、見事に三兄弟の真意を見抜いていました。正直、驚きました。そして、失礼ながら、尾行して、素性を調べさせてもらいました。それでも、途中で、勘付かれて、暗礁に乗り上げました。しかし、ミシェル様が、経団連との会議で日本へ訪れた時に、梅様のお墓参りに。それで、梅様にたどり着いたのです」
それから、トニーが、梅を捜して、山姥さんに行き着いて、釈放させた。そして、山姥さんは、結婚式の時、コックリの手助けをした。
「実は、三兄弟のことは、コックリの助言があってのことだったんです。あの子、そういうところ、鋭いから」ダー子が、顛末を話した。
「そうでしたか……ところで、ダー子様、ひょっとしたら、初代ツチノコの子孫では?」トニーが、唐突に尋ねた。
「そうですが?」
「やはり。写真で拝見しただけですが、あまりにも似ていたので」
「色々ご存じなんですね?」
「いえ」
ダー子らが、帰国した。
「トニーについて、分かったことがあります」リチャードが、口を開いた。
「何?」ダー子が、聞いた。
「ガラパーティーの爆弾男……あれ、トニーの仕込みだったそうです」
「え! 子猫だったの?」ボクちゃんが、驚いた。
「やっぱりそうか」ダー子は、至って冷静。
「やっぱりって、知っていたのか?」
「コックリを止めようとした時、木陰のトニーが目に入ったの。至極冷静だったわ」
「だから、止めるのをやめたのか?」
「そうよ」
「あの爆弾男の工場は潰してしまいましたが、今は、立派な仕事を任せているらしいですよ。それに、玉璽も、わざと見えるようにしていたようですよ。全て、お見通しだった」
「トニーってやっぱ凄いわ」ダー子が、感銘を受けた。
「トニー、恐るべし」ボクちゃんも、同感。
「不自然なほどにね」リチャードも、脱帽した。
13
後日、飛車野が、ダー子、ボクちゃん、リチャードとビデオ通話をした。赤星も参加した。
「あれは、誘拐じゃなかったんだ」飛車野が、告白した。
「どういうこと?」ダー子が、尋ねた。
「『私をインターポールから守ってみろ』と、言ったんだ。赤星に」飛車野が、赤星に試練を与えた。
「……」一同、言葉を失った。
「身代金は、どうしたんですか?」ボクちゃんが、問うた。
「……会社で、不渡りを出してな」赤星が、小さな声でつぶやいた。
「本当に?」ダー子が、突っ込んだ。
「実は……障害児者の団体に寄付したんだ」
「捜査混乱のために?」ボクちゃんが、追求した。
「いや……文字通り、障害児者のためにだ」
「素直じゃないんだから〜」ダー子が、嬉しそうに突っ込む。
「実は、カクトとは、障害の関係で知り合いなんだ」赤星とカクトには、接点があった。
「僕も、BTCの送金の手伝いをしたんです。全世界の障害児者の団体に配りましたから」
「良かったじゃないですか。結果的には、インターポールから、2100BTCせしめたことになりましたし」リチャードが、喜んだ。
その時、飛車野が、
「コックリとカクトとも繋ぐよ」
と、告げた。
コックリとカクトも、ビデオ通話で繋いだ。
「ダー子さん、私たち、実は、以前、主人に会ったことがあるんですよ」コックリが、ダー子に嬉しそうに告げた。
「そうよね! でも、思い出せない」
「フウ家のSPから、腹痛で、逃げ回った時に、手助けしてくれた方なんです」
「ああ、あの時の!」
「トニーに、ミシェルを守るように頼まれていたので」
バチヘビは、代々ツチノコを守る存在。
「先回りしていたと言うの?」ダー子が、驚いた。
「バチヘビの子孫ですから」
「あなた、本当に四代目ツチノコじゃないの?」
「まさか」
「四代目が誰だか知っている?」
「知りません」
「わしとカクトは、『天使のいる家』を狙っている輩を内偵していたんだ。それで、赤星に頼んで、誘拐事件をでっち上げてもらったんだ。犯人の目星をつけていたから、結婚式を身柄引き渡し会場にしたんだ」飛車野が、告白した。
「そういうわけだったんですね!」コックリが、明るく納得した。
「良い結婚式だったな。『天使のいる家』は、盗まれてしまってけれど」ボクちゃんが、残念そう。
「まさか」ダー子が、突っ込んだ。
「え?」
「贋作に決まっているでしょう」
「そうだったのか?」
「タンバリンの空飛ぶクルマを警視庁の屋上に着陸させたの。五十嵐が、自動運転で、プログラムして。『オートドアロック』で、気づかれるまで、車の中よ」
「流石」
「コックリのおかげよ」
「コックリが?」
「優秀な子猫ちゃんなんだから」
「恐縮です」コックリが、タンバリンの素性を見抜いていた。
「だから、マルタの頃から、マークしていたの」
「しかし、ダー子も、簡単に居場所を見つけられるなよな」ボクちゃんが、突っ込みを入れた。
「尾行させたのよ。タンバリンったら、途中で見失うから、戻ったくらい」
「丹波さんを仲間に引き入れた時から、話は始まっていたんです。インターポールも、ダー子さんには、敵わないということです」リチャードが、微笑んだ。
「タンバリン、実は、トニーの変装なんじゃないかと思ったわ」ダー子が、懐かしそう。
「え! 違うだろう?」ボクちゃんが、青天の霹靂。
「結果的には違ったけど」
「優秀な信用詐欺師でしたね」リチャードも、認めた。
「スターやジェシーの身辺調査なんて、普通の詐欺師には、無理よ。だから、マルタで、大役を任せたの」ダー子が、内情を打ち明けた。
タンバリンは、警察に捕まって、
「子宝に恵まれず、つい……」
と、白状していた。
「タンバリンの奥さん、ご懐妊されたそうだよ」リチャードが、インターポールに詳しい。
「本当なの?」ダー子が、喜んだ。
「贋作でも、『天使のいる家』のご利益があったのかな」リチャードが、笑った。
「それにしても、赤星さん、よく捕まらなかったですね」ダー子が、感心した。
「三代目ツチノコだからな」赤星が、言った。
「まさか」誰も信じない。
「本当なんだ」赤星は、真顔だった。
「じゃ、あなたは……?」ダー子らは、飛車野に指導を受けた。
「俺の親父。ただの詐欺師だ」赤星が、告げた。飛車野は、赤星の母親と離婚して、栄介は、赤星姓を名乗っていた。
「今まで、何を教えられていたの?」
「だから、俺を相手にコンゲームをしていたんだ」赤星が、フォローした。
ダー子らは、赤星に指導を受けていた。
「お前は、ただの悪党じゃないか。障害児者のために尽力していたようだけど……」ボクちゃんが、食ってかかった。
「初代ツチノコだって、言ってみれば、盗人だぜ。それに、お前らだって、お金を湯水の如く使っていたじゃないか」
「あなたは、もっと酷いわ」ダー子も、納得がいかない。
「いや……赤星さんは、世界的な障害児者の福祉グループを作ろうとしているんだ」カクトが、たまらずフォロー。
「あら、良いじゃない?」ダー子が、興味を示した。
「ダー子、四代目になってくれないか?」赤星が、真顔で言った。
「それはできない」飛車野が、キッパリと断言した。
「どうして?」
「ツチノコは、産後すぐに襲名する。ダー子たちは、もう間に合わない」
「じゃ、はなから僕らを四代目ツチノコにする気がなかったのか?」ボクちゃんが、納得いかない様子。
「そのしきたりを破ってでも、四代目に推薦しようと思っていたんだ」
「赤星さんを三代目ツチノコに襲名したのは、誰ですか?」ダー子が、質問した。
「父親だろう」赤星が、あやふやに答えた。
「いや……栄介は、三代目ツチノコじゃないんだ。三代目は、初代ツチノコが、手配したと伝え聞いている」飛車野が、申し訳なさそうに答えた。
「は?」赤星が、放心状態。
「栄介が、産まれた頃、三代目も産まれたらしい。どこの誰かは知らないが。栄介は、襲名されていないが、産まれた時から、わしが指導して来たんだ。立派なツチノコだ」飛車野は、本気で、赤星を四代目ツチノコにしようとしていた。
「なんだよそれ?」
「ツチノコは、当代随一の者が継ぐんじゃない。当代随一に育てるんだ。およそ四十年前、栄介に、『三代目ツチノコになってくれ』と、申し出た。栄介は、『お、俺が?』と、動揺しつつも、話に乗って来たんだ。実は、ダー子たちに会った頃から、栄介の修行を始めていたんだ」
「……」赤星が、言葉を失った。
「だが、ついつい欲が出ちゃうんだな、これが」
「まあそうだよね」ダー子が、納得。
「ダメだこりゃということになってな……」
「赤星さん、産まれた時から、騙されていたのね」ダー子が、大笑い。
「笑うな!」赤星が、怒った。
「じゃ、本物の三代目ツチノコは?」ダー子が、聞いた。
「?」飛車野も、分からなかった。
「これじゃ、四代目も全く不明のままですね」リチャードが、諦め半分。
14
数ヶ月して、飛車野が、死にそうになって、ダー子らに連絡が入った。
「マルセル真莉邑が、血眼になって、三代目ツチノコを探しているらしい。三代目ツチノコが、悪事を働いているようで。私は、偽者だと思っているんですが。だから、私たちの身も、安全とは言えないようですよ」リチャードが、ダー子らに報告した。
それでも、一同が、危険を冒して、お見舞いへ行った。
「わしは……実は、二代目ツチノコなんだ」飛車野が、真剣に言った。
「本当なの?」ダー子も、信じられないといった様子。
「赤ん坊の頃に、初代ツチノコに襲名されたからね」
「本当なの〜?」
「これが、ツチノコの証だ。もっとも、今は、三代目ツチノコがいるから、引退した身だが」飛車野が、特殊な金貨を見せた。
「……本物だ。曽祖母のものと同じだわ」ダー子が、ツチノコの証を確認した。
「わしは、捨て子でな……初代ツチノコが、『いつか、幸せな家庭をもたせてあげたい』と言ってくれた。そして、栄介を授かった。嬉しかったなぁ……初代ツチノコの最期に、栄介の顔を見せられることができた」
「そうなんだ……」
「梅は、三代目ツチノコの候補だったんだ。本物の三代目ツチノコと切磋琢磨していたようだが、最終的に、辞退した。娘ができたからって。それで、娘のコックリに、四代目ツチノコになってもらおうとしたが、断られたようだよ」
「三代目ツチノコは、誰だと思います? 四代目を守りたいので」
「分からない。ただ、言えることは、ツチノコは、信用詐欺師の質と心を高めるのが仕事。栄介を指導して、改めて、感じたことだよ。言わば、コンフィデンスマン・トレーナーだ。一種の英雄だ。ツチノコの形も、時代と共に変わるということかな」
「だから、お前たちを鍛えていたんだ。それに、ダー子も、コックリを育てた」赤星が、潮らしかった。
そこへ、マルセル真莉邑が、登場して、
「話は聞いたわ」
と、告げた。
「二代目ツチノコを逮捕しないんですか?」ダー子が、恐る恐る聞いた。
「狙いは、あくまでも、三代目ツチノコよ」マルセル真莉邑が、飛車野を見逃した。
「マルセル真莉邑も、良い線行っていたんだけどな」ボクちゃんが、マルセル真莉邑を誉めた。
「マルセル真莉邑は、インターポールの幹部の娘なんです」リチャードが、告げた。
「三代目ツチノコを逮捕するんですか?」ボクちゃんが、マルセル真莉邑に質問した。
「ツチノコは、捕まえられないの」
「どうして?」
「ツチノコの窃盗に対しては、誰一人として、被害届を出していないんです。昔から。それどころか、ツチノコにお世話になった人々が、後のツチノコの一門を守っているから」
「捕まえない方が、世の中良くなるんじゃないかな」インターポールの幹部も、その一人だった。
15
ダー子らが、ダー子の部屋で、まったりとしていた。
「あら、手紙。三代目ツチノコからだわ」ダー子が、封を開けた。
手紙:〈四代目ツチノコは……アナ・フウに決まった〉
「アナ・フウ?」リチャードが、不思議そうに言った。
「また知らない名前が……」ボクちゃんも、知らない名前だった。
その時、空飛ぶクルマが来て、
「お久しぶりです」
と、現れたのは……コックリとカクトだった。
コックリは、お腹が大きい。
「春に産まれるんです。名前はアナ……ダウン症です。素敵なツチノコに育てて見せます」コックリが、満面の笑み。
「優しい信用詐欺師が育ちそうね……頑張れ」ダー子が、激励した。
「はい」
「俺が、指導してやる。二代目直伝だからな。ハッハハハハ」赤星が、高笑い。
「責任もって育てます」コックリが、答えた。
「あげるよ。私には、必要なさそうだから」ダー子が、『天使のいる家』をカクトにプレゼントした。
「良いんですか?」
「この絵は、この時のために描かれたものだと思うわ」
「それだ、それが、ツチノコの魂だ。栄介の指導の賜物だな」飛車野が、喜んだ。
そこへ、モナコが、登場した。
「あ、モナコさん。結婚式の時は、すみませんでした」コックリが、お礼を述べた。
「良いのよ。結婚式の前後に、梅さんの一門の人々に会いに行っていたんだけど、みんな、『ココロによろしく』って、言っていたわ。結婚式では、大役を果たせて良かった。コッテリ絞られたけどね」
「おかげで、素晴らしい結婚式になりました」
「見たかったー」
「どうして、影武者なんて、危険を冒したんだ?」ボクちゃんが、モナコに問うた。
「コックリと梅さんのことを調べて、守ってあげなくちゃって、思ったんです」
「そうかー」
「調べもの、完了しました」コックリが、ダー子に資料を渡した。
「ありがとう。写真もあったんだー」
「会う人は、みんな幸せそうだったって言っていました」
「そう……」
「でも、どうして、あの段階で、この任務を私に?」
「飛車野さんが、三代目だと思っていたから、亡くなったら、コックリが、四代目になるんじゃないかって。そしたら、梅さんの情報も必要でしょ?」
「なるほど」
「でも、四代目が、コックリの娘だなんて!」ダー子が、コックリに抱きついた。
16
昭和初期、マオ・フウと初代ツチノコが、都内のバーにいた。
「今度、孫が産まれるんでしょ?」初代ツチノコが、切り出した。
「ああ。レイモンドと名付けようと思っている」マオ・フウが、答えた。
「その子に、ツチノコを継がせてくれない? 産まれた時に襲名して、徹底的に訓練したいの」
「……縁があれば、いずれ」
後に、マオ・フウの執事が、子供を授かった。
「信頼のおける執事が、子を授かったから、任せてみようか?」マオ・フウが、初代ツチノコに申し出た。
「そうしてくれる?」
執事の子供が、産まれた。
「トニーと名付けました」執事が、マオ・フウに告げた。
三代目ツチノコは――トニーだった。
レイモンドの最期、
「トニー、四代目ツチノコの襲名を頼んだ」
と、トニーへの遺言を遺した。
「御意」トニーが、覚悟を決めた。
数ヶ月後、トニーが、階段を降りると、母子が、立ち上がって、会釈した。
ダー子が、コックリを連れて、現れた。
「レイモンド様、良い信用詐欺師に出逢えました」
エピローグ
アナ・フウが、産まれた。
「あら、ダー子さんからのビデオメッセージだわ」コックリが、動画を開いた。
そこには、梅とコックリの思い出の写真のスライドショーが収められていた。
梅が、コックリを産んだ時の写真、レイモンドが、コックリを抱いている写真、梅とコックリが、動物園のキリンの前でポーズをとっている写真、小学校の入学式の写真――。
モナコが集めたものだ。
ダー子が、梅を演じて、コックリにメッセージを独白。
「梅さんは、コックリに良い服を着させて、美味しいものを食べさせることが、生き甲斐だったみたい。信用詐欺くらいしかできることはないからって、必死だったんだって。コックリ、信用詐欺に巻き込んでごめん……最後に、梅さんの写真と一緒にあったメモを読むね……『ココロ、あなたには、両親がいなくなる。ごめんね。だけど、あなたならできる。素晴らしいファミリーを築きなさい』」ダー子が、声を詰まらせる。
コックリが、うなずく。
了
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